7月講座レポート

2024年7月13日(土) 
北﨑浩嗣 先生
(鹿児島大学法文学部教授)
テーマ「新幹線と並行在来線問題-主に西九州新幹線を事例に-」

 

     準備された資料に基づき、以下の構成で具体的な説明がなされた。

1.並行在来線問題とは?(1)整備新幹線5ルート。(2)国鉄分割民営化(1987年4月)と並行在来線問題の顕在化。

2.長崎ルート問題までに顕在化した在来線問題。(1)長野新幹線着工に伴う「しなの鉄道」の開業(1997年10月1日)。(2)九州と同時並行で対応を迫られた東北の「IGRいわて銀河鉄道」「青い森鉄道」。(3)肥薩おれんじ鉄道(九州新幹線・鹿児島ルートの開業に伴う)の誕生の経緯。(4)北陸新幹線の延伸に伴う、北陸地域の対応。

3.西九州新幹線(長崎ルート)の経緯。(1)鹿島問題(FGT導入による西九州新幹線の建設を推進する長崎県・佐賀県と、建設に反対する沿線の鹿島市・江北町の対立、本格化したのは2003年~2007年)。(2)現在の鹿島市の状況。

4.西九州新幹線の武雄温泉―新鳥栖間の膠着の理由。(1)武雄温泉―新鳥栖間の膠着状態。(2)リレー方式による武雄温泉―長崎間の開業。(3)佐賀県の4項目の主張。(4)世論調査にみる県民の意見。

     最後に「まとめにかえて」として、(1)並行在来線の三セクでの運行は、プロのJRが見放した区間であるため、おしなべて経営の維持は難しい。先発した地域、特にしなの鉄道、東北2線と肥薩おれんじ鉄道からの教訓を生かして、後発地域では何とかスキーム(経営基本計画)が作成されてきた。(2)西九州新幹線の場合、鹿島問題の際に、国と地域の信頼関係が失われてきた感がある。それが武雄温泉―新鳥栖間の整備に大きな影響を与えている。並行在来線区間・沿線自治体の全ての市町村の同意が必要という現在のルールから、都道府県の同意だけでよいのではという意見に、私としては反対の意見である。(3)西九州新幹線の場合、ルート上に、新幹線建設より在来線の維持(特急の維持)を望む県が出てきたことが最大の問題、また建設費負担のルールも大きなハードルになっていることは確かである(佐賀県は第1の理由にしていないが)。(4)並行在来線と地域がどう共存するか?の問題について、並行在来線第三セク鉄道に限らず、ローカル鉄道の存続のためには、マイレール意識と地域住民の鉄道会社へのガバナンスが必要だと感じている。地域の鉄道会社を、地域住民、地元民間企業がどう盛り上げ、関与していくか、その仕掛けづくりが大切だと思われる。また、地域振興には行政・民間・住民の共生・連携が必要だ。JRには民間企業であっても公共交通機関であるという地域での存在感を期待したい。