1月講座レポート

2022110日(月) 
萬田正治(まんだまさはる)先生
(鹿児島大学名誉教授・農学博士)
テーマ「食と農に吹く風」

 

 

 大学を早期退職、平成15年から霧島市溝辺町竹子(みぞべちょうたかぜ)の山里で合鴨農業を基軸とする有機農業の萬田農園を経営。

 人の命を維持している根源的なものは太陽、人間は地球生命体の一構成、農は自然との共生(傲慢?)ではなく、人間も自然の一部として感謝の心でとらえるべき。私の一日は、韓国岳に昇る太陽に手を合わせて始まる。生命を支える物的条件は、空気・水・エネルギー・食糧、これらが今危うい。人の生きる礎は、食糧に関わる第一次産業(生命産業)。戦後70年、農と食に吹く風は強い向かい風。食糧自給率は低下の一途、産業別就業人口も一次産業が減少、地域は過疎と過密に二極分解、「老いる村」から「消える村」に、農村社会の崩壊が迫っている。山里に住んだ印象は、赤ちゃんの泣き声がしない、家畜の声もしない、庭先に鶏がいない、戸外で遊ぶ子どもがいない、お年寄り・一人暮らしが多い、お葬式が多い、廃屋が増えた。しかし、人と人との絆は濃密。

 食品の安全性が問われている。店頭に並ぶ食べ物は「食材」、食することに命を感じない、食前の「(命に感謝する)いただきます」が死語に。食の文化が消える。食と農の課題、①農家の暮らしは成り立つのか、②農村社会の再生はできるのか、③食糧自給率を上げ食糧輸入大国から抜け出せるのか、④安全な食の確保は可能なのか、⑤自然環境を守ることはできるのか、⑥食の文化は取り戻せるのか。これらを人生最後の宿題として大学を早期に退職し竹子の里に移り住んだ。現在、次の活動を展開している。〇竹子農塾→教育(志の高い人を)、〇田主の会→都市との連帯、〇直売所「きらく館」→流通、〇学生サークル「自主トレ」の支援→教育(学生の農業体験講座、里山の家庭教師)、〇研修生受け入れ→後継者育成、〇地域・人との交流→竹子の風結成、〇自然エネルギーによる地域の活性化、鹿大と共同プロジェクト。

 自作の「私が夢する詩」を紹介。「清らかな水と美しい自然に囲まれた山里で いつも太陽や自然の恵みに感謝し 日々平凡に暮らす家族がある そこには小さな小学校と集落があり 専業、兼業、非農家を問わず小さな農家も大きな農家も共に助け合い 結いの心が残る村がある」。今、国内農業を見直す機運の高まりなど、ささやかな風が吹き始めている。いずれ竹子の地に、私立の新しい農学校を興したい、名称は竹子(霧島)農学校。