12月講座レポート

2022年12月10日(土) 
宮下正昭(みやしたまさあき)先生
(元鹿児島大学法文学部准教授)
テーマ「実名報道。その覚悟を問う」

 

    南日本新聞社に記者として永年勤務、その経験に基づき、新聞記事を画面に映しながら問題提起。京都アニメーション事件でメディアは被害者の実名を報じ、名前こそニュースであり、名前を出すことで検証もできる、名前を出す責任も伴うという立場を広く社会に訴えた。しかし、その後のメディアの容疑者報道を見て、果たして本気なのか、名前こそ検証に堪えうるために必要だという覚悟があるのか、少しおぼつかない気がするとのこと。

    それより前に話題になったのは、知的障害者施設の元職員による19人刺殺。警察は被害者の名前を発表しなかった。「死んでからも差別されるのか」「匿名では個人の歴史が残らない」、遺族側からは「障害者への根強い偏見のある日本社会で、実名報道は身内にとって痛手である」と。ある重度身体障害者の投稿「なぜ障害者に限って家族の意思が尊重されるのか、『ペット扱い』気付いて」。日本的な集団を大事にする意識、容疑者についても犯した罪で人格の全てを否定するような考え方。被害者の実名・.   匿名は、2019年「マスコミ倫理懇談会全国大会」のテーマでもあった。難しい問題ではあるが、事件の容疑者の側からメディアの本気度を見てみたいとのこと。

容疑者の名前イコール逮捕。「捜査の原則は任意、身柄拘束は最後の手段」を明確にすべき。実際は、自白追及・懲らしめ目的の逮捕が常態化、記者たちも追認・黙認。本当に検証のための実名報道なのか。逮捕した盗撮容疑者を匿名報道、一方で痴漢容疑者を実名報道。逮捕要件の軽重と関係なく社会的関心事からの懲らしめ逮捕が頻発、マスコミも警察に同調。捜査チェックの役割を果たしているのか。司法は基本、実名報道の社会的意義を是認している。『事件の取材と報道(朝日新聞社)』によると、

①「だれが」は重要な関心事 ②真実性の担保 ③匿名による混乱防止 ④権力監視、実名か匿名かは報道機関が自主的に決めるもの、実名で報道しても犯人視した報道はしない。しかし実態は警察次第。「男性」「女性」が容疑者になると「男」「女」に変わる。一方、かつての呼び捨てが今では「~容疑者」に。そろそろ「~さん」に変えたらどうだろうかと。

    最後に供述情報の怖さと影響力、「小6女児焼死事件」では作り上げられたストーリーにマスコミも同調、自供情報を垂れ流ししていたマスコミの責任は大きい。実名で報じる責任を負いながら、常に捜査・司法当局をチェックする、記者も実名で責任を取る、警察主導の取材・報道からの脱却を強調された。