8月夏期集中講座レポート

8月5日、6日の2日間、「造士館講座夏期集中講座」として4本の講座を実施しました。講師の先生方、参加いただいた皆様に敬意を表しつつ、講座の内容をご報告いたします。

2023年8月5日(土) 
金子満(かねこみつる)先生
(鹿児島大学法文学部准教授)  
テーマ「地域共生社会を目指して~みんなが元気になるコミュティづくり~」

 

自己紹介の後、当講座に親子お招きいただき感謝している旨の挨拶。

○ 昨今、一定の地域に居住し、共属感情を持つ人々の集団の希薄化が目立つ。まさにコミュニティが国民的課題である。

○ 少子高齢化時代で人口減少が生まれている。20年後には、自治体の半数が消滅するデーターがある。その中で、地域のコミュニティは、目的と手段がひっくり返った現状である。

○ 互いが共属感情を持つ地域社会を目指すには、地域の実態把握が不可欠である。

○ 世代間交流の重要性、及び連携・協働が大事である。

 

 <参加保障福祉社会の実現の3つの視点>

1  一人ひとりの「存在」がともにつながり合うことによって生まれる組織的活動。         

    誰も取り残されない、底が抜けない社会。みんなが元気で活躍できる社会。

2  ○○しなければ(must)から○○したい(want)への転換。

3 協働から響働へ

シンフォニー(協働)を奏でましょう。

 

結びに、住民がいるから社会が構成される(存在)の意義、みんなが元気がでるコミュニティについて触れられた。

 
2023年8月5日(土) 
金子陽飛(かねこはるひ)先生
(唐湊山の手町内会長)
テーマ「町内会長就任、そして実践へ~みんなが活躍できる地域を目指して~」

 

 

    午前の講師、金子満先生のご子息。2020年、全国初の高校3年生町内会長に。以来、活動を継続。鹿児島大学発ベンチャー企業「フィルワークウィル株式会社」の取締役として、父親の研究成果を地域に広げる仕事にも従事。50世帯の町内会長に就任した経緯、父親の地域活性化プロジェクトに参加、若い世代の参加・発言に触発され町内会への興味関心が湧いた。しかし現実は、役員のなり手がいない。輪番制、負担、メリットの無さ等。父親の何気ない一言「町内会長できるんじゃない。やってみたら」。総会で手を挙げて、自分の思いを伝え賛同を得た。

    会長就任後、各世帯をあいさつ回り。3分の1が75歳以上。夏祭りの行事等もほとんど失われた。人手も予算もない現実。しかし、住民一人一人に視点を当てると「たくさんの個性がある」、地域が立体的に見えてきた。他人事から「我が事」への転換。なぜ町内会が衰退したのか。時代背景が変化する中、相も変わらず3G(我慢・犠牲・義務)にまみれた町内会、このままではやる気が削がれていく。LET(LOVE・ENJOY・THANKS、「他者の喜びは自分の喜び、みんなが楽しめる活動、様々なものや人に感謝の心」)の考え方へ。自らの意思でやりたいことに向かってワクワクドキドキしながらチャレンジする魂の活性化が重要。それらを中長期的なものとして町内会に取り入れることが必要。

    実践事例として「遺伝子継承型町内会活動」と「パズル型町内会活動」を紹介。前者は、祭り等大切なものの継承。現状は前例踏襲、継続することに意識集中。目的を明確にして地域の祭りの再構築へ。「敬老の日のお祝い」を、子どもたちが思いを届ける敬老の日に。後者は、長所と短所を相互に補い合うパズル理論。出来る人が出来ることを持ち寄って面で支える相互扶助機能を内在した自治組織。現在取り組んでいる事例、「地域コミュニティ協議会における業務の可視化と共有化」と「業務や活動計画情報のICT化」。ICTを活用した情報伝達システムの構築は、迅速化、多くの人との情報共有、システムを活用した取組の構築など活動自体の広がりも期待できると。

    「覇気をもって実社会に飛び出していく若者を育む教場」としての「造士館講座」が、今回「覇気のある若者」から大きな元気をいただいた。

 
2023年8月6日(日) 
吉満庄司(よしみつしょうじ)先生
(県立大口高等学校校長・歴史研究者)  
テーマ「五代友厚の先見性・開明性の源流を探る」

 

    昨年、大口高校教頭、今年校長に。少子化の中、大口高校も生徒確保に苦慮。冒頭、生徒たちの「伊佐米で作った大口高校米(マイ)クッキー」を紹介。生徒や学校・地域活性化への熱い思いが伝わった。
 五代友厚は、政商というイメージから鹿児島ではあまり人気がなかった。銅像も大阪人が造ったもの。同郷の黒田清隆と共謀したとされる北海道開拓使官有物払い下げ事件、五代への評価が不当に貶められた。今、教科書の表記も変わり、改めて注目されている。鹿児島中央駅前の「若き薩摩の群像」、最上段の二人は一行の団長新納久脩と留学生の監督町田久成。派遣を建言した五代友厚は正面の中央に座している。薩英戦争で捕虜になった五代、彼の建言の採用は、プランが経済面等で具体的、留学生派遣の発案者が島津斉彬だったことによる。久光・忠義体制で、順聖院(斉彬の戒名)様の御心意は重大。

    五代家は中級武士の小番(こばん)、儒学者の家柄、郷中教育、藩校造士館で学ぶ。「新訂万国全図」を兄の友健が模写。家庭環境が友厚の開明的な思考に影響。閉鎖的・排他的と言われる薩摩、しかし蘭学者のネットワークで地図を入手、藩としても優秀な人材を招聘、情報も入手。長崎に幕府の海軍伝習所、鎖国体制は幕府による貿易・情報の独占を意味する。「オランダ風説書」は幕府に提出させた海外事情に関する情報書類。薩摩藩は、長崎の通詞を懐柔して先に入手。薩摩藩はグラバーを通して上海のジャーディン・マセソン商会とも貿易。海軍伝習所に派遣された友厚は人脈を形成し視野を広げた。国際性を研ぎ澄ます格好の場所。薩摩藩英国留学生のメインは友厚を含む使節団の4人。友厚の役割は経済使節(紡績機械、武器弾薬の購入)、購入した機械は「磯」の鹿児島紡績所跡、招聘した技師たちの住居が異人館跡。株式会社や資本主義経済の概念をきちんと理解した最初の日本人。大陸に渡りベルギーで貿易会社設立、パリ万博に幕府とは別にエントリー。

    帰国後は、外交問題に対応、造幣寮等の設置や大阪商法会議所の設立等、日本に西洋の資本主義システムを構築した。決して政商ではない。政治と経済と外交政策を一体的に考えることのできた人物。様々なエピソードを交えながら、知識の狭間を埋めていただいた。

2023年8月6日(日) 
三宅太郎(みやけたろう)先生
(南日本新聞編集部記者)  
テーマ「和牛時代~『王国』の現在地」

 

「全国和牛能力共進会」、2022年鹿児島大会で6部門を制して「和牛日本一」に。鹿児島で和牛づくりが本格化するのは1950年代、先進地の鳥取県、兵庫県などから種牛を導入、技術指導を受けながら産地化を進めた。当初は「薩摩の芋牛」(脂肪が黄色)と揶揄された。今や、一大産地に成長した鹿児島県。
 永年、農政担当、中でも畜産関係が長く、鹿児島大会で取材班のとりまとめ。昨年1月から11月まで「翔べ和牛」を連載。取材で感じたこと、農政担当としての思いを話す。

    最初に和牛の基礎知識。生産農家(母牛から子牛を生産、9か月ほど育てて競りに出荷)と肥育農家(競りで子牛を買い付け、約20か月かけて肉牛に仕上げる)の分業制、鹿児島県は子牛産地、1~2割が県外の肥育農家へ。県外ブランド牛の素牛(もとうし)に。「鹿児島牛は伸び(発育)が全然違う、産地としての意識が高い、生産農家の腕がいい」と高評価。15段階の枝肉格付けは、歩留まり等級(歩留まりの良さをもとにA~Cの3段階で評価)と肉質等級(サシの量、肉のきめ・締まりなど4項目を5段階で評価)。サシの量が肉質等級を左右、サシ重視の生産が加速。輸入牛肉との差別化に成功。
 23年上半期の牛肉輸出額262億円は、加工食品を除く農産物のトップ。国が進める「農業の成長産業化」のけん引役、しかし、和牛界の将来は明るいのか?「飼料高騰で農家が苦境」「大量の穀物、水が必要」「牛のゲップに温室効果ガス」、そもそも霜降り和牛は「売れる商品」なのか?コロナで見えた外需頼み、純粋な国内需要では産業として維持できない現実、「持続性」に疑問。消費者ニーズ調査「霜降りと赤身のどちらが好きですか」、これからの消費を担う20代~40代で赤身優位が顕著。牛肉への嗜好が変わってきた。翻って緑茶、2008年に一番茶が30年ぶりに安値、ペットボトルや様々な飲料の出現、ニーズを捉えなければいずれ相場は崩れる。バブル期の物差しで「令和」のニーズは測れない。

 鹿児島県が20年後、30年後も「王国」であるため、「格付けの見直し」(赤みを評価できる物差しづくり)、「脱A5神話」が必要。和牛が「翔ぶ(次のステップに進む)」ためには、大産地鹿児島は需要のすそ野を広げる商品展開を目指すべき。大産地は大産地らしく大産地であるがゆえの強みをとエールを送られた。