8月夏期集中講座レポート

去る8月22日、23日の2日間、残暑の厳しい中、新型コロナウイルス感染対策を講じながら、造士館講座夏期集中講座を実施しました。参加いただいた皆様、ご協力いただいた講師の先生方に心から感謝の意を表しつつ、講座の内容をご報告いたします。

2020年8月22日(土) 
大木公彦(おおききみひこ) 先生
(鹿児島大学名誉教授)  
テーマ「鹿児島城と城下町を支えた石の文化」

 

九州の5大カルデラのうち、4つが鹿児島にあるとのこと。35以上の火砕流の分布図、万年単位の噴出年代、石材として使用された火砕流堆積物(溶結凝灰岩)の石材名等を示し、それらが鹿児島の町づくりにどのように使われてきたか、中央公民館、酒造会社の石倉、仙巌園反射炉の基盤、西田橋の胴木の上の敷石、鶴丸城御楼門を支える礎石、福昌寺跡や南洲墓地の墓石等々、歴史を行きつ戻りつしながら、時折、石の現物を手に音の違いを説明し、実際に舐めたりなど、息つく間もないパワフルな授業だった。こちらもに皮膚感覚で内容が伝わり、「日本は木の文化」という先入観にくさびを打ち込まれたようだった。

 
2020年8月22日(土) 
井村隆介(いむらりゅうすけ)先生
(鹿児島大学准教授) 
テーマ「自然災害に備える」

 

避難が遅れるから命を落とす、逃げ遅れないために避難へのスイッチをどこで入れるのか、そのための情報収集や優先順位の付け方に言及された。東日本大震災における大川小学校を例に、避難訓練の在り方にも苦言を呈された。何よりも学校は子どもの生命と安全を守ることが優先順位の第一。訓練のための訓練では駄目、マニュアル通りにはいかない、臨機応変の適切な対応ができなければならない、「8.6」の経験を忘れるな。厳しい言葉が胸に刺さった。危機における子どもたちの適切な判断・行動は、ひとえに日常生活の在り方にかかっている。私ども大人の責任は重大である。

 
2020年8月23日(日) 
川涯利雄(かわぎわとしお)先生
(元高校教諭、現代歌人協会会員)  
テーマ「現代の喪失 短歌は日本の宝」

 

昨今の言葉の乱れは日本のいびつな社会に起因する、具体的事例を掲げながら例証された。その上で、言葉には人間としての生き方が現れる、かつて武士の誰もが辞世の句を詠めたのは心の底に武士道があればこそ、万葉集の東歌は庶民の素朴な感情の現れであり、短歌は日本人の心の基本であると熱っぽく語られた。日本人のアイデンティティ確立のため明治天皇が開設した御歌所には、鹿児島県ゆかりの八田知紀、高崎正風、税所敦子がいたことなど、短歌の歴史を紹介しながら、上田三四二『短歌一生』の「短歌は船の底荷」(船底にある重荷のせいで船が傾かない)を例に、一人一人のアイデンティティを5・7・5・7・7に表現してほしいと結ばれた。

2020年8月23日(日) 
藤原一彦(ふじわらかずひこ)先生
(MBC元キャスター)  
テーマ「伝え手として歩んで~放送は人と人をつなぐ~」

 

導入の見事さ、丁寧で深みのある明瞭な語り。「なるほど伝えるとはこういうことなのか」、心地良い時間が過ぎた。MBCニュースキャスターとして、得心のいく番組作りのため、現場に足を運んでの「立ちレポ」、スタッフ全員でのきめ細かな準備と総括。同音異義語や類音語等について、例を挙げながら誤解を生まない表現の仕方を説明された。企画ニュースや番組制作にも挑戦され、「ALSと生きる」など深刻な場面にも正面から向き合う姿、そこには、相手の立場や受け手の立場への深い配慮が見られた。畢竟、先生の語りの優しさは人間としての優しさであり、MBCの理念「地域の人たちの喜怒哀楽とともに」と軌を一にしていると感じた。