8月夏期集中講座レポート

8月6日、7日の2日間、「造士館講座夏期集中講座」を実施しました。新型コロナの感染防止に努めながら、無事に終了いたしました。参加いただいた皆様、講師の先生方に心からの謝意を表しつつ、講座の内容をご報告いたします。

2022年8月6日(土) 
大富潤(おおとみじゅん)先生
(鹿児島大学水産学部教授)  
テーマ「鹿児島の海はうんまか深海魚の豊庫」

 

    画面には深海魚「アブラボウズ、ボウズコンニャク」。魚がなすべき三つは、敵から身を守ること、餌を食べて大きくなること、そして子孫を残すこと。写真を示しながら、その生態について、ユーモアを交えて具体的に分かりやすく説明。深海魚が子孫を残すのは大変なこと。鹿児島湾で獲れる地魚が海に捨てられている。鹿児島県は、全国カンパチの5割を養殖。カンパチは温かい海の魚。昨今の温暖化現象で、サンマ、サケが沿岸で獲れなくなった。一方、函館のブリがブランド化。カンパチが北海道の定置網に入る。鹿児島の養殖カンパチはどうなるのか。

    鹿児島湾は日本で唯一の内湾にして深海(200メートル以上)。深海に網を下ろす「とんとこ漁(伝統漁法)」はナミクダヒゲエビを狙ってのもの。一緒に獲れるヒメアマエビはかつて二束三文、しかし20年かけた普及活動で魅力あるおいしいエビに。魚もヨロイイタチウオ、ボウズコンニャク、ウッカリカサゴ等が上がってくるが、ほとんどは捨てられていた。水産学部の附属練習船「南星丸」(175t)で錦江湾深海底の生物を研究、その実習動画を紹介。一番沢山獲れるのがヒメアマエビ、ナミクダヒゲエビ、魚もマルヒウチダイ、アイアナゴ等、いずれも美味しいとのこと。発見した新種にはオオスミテッポウエビ、サツマテッポウエビ、タギリカクレエビ、そのほか日本初記録種に標準和名トントコシロエビ、キンコウワンサケエビを。今まで千二百数十種類を食べたとのこと。
 「鹿児島はうんまか深海魚の豊庫」、南北600キロ、南西諸島へ連なる島しょ域、深海魚の好漁場でもある。深海魚のメッカは駿河湾、「絶品深海魚」の看板も。鹿児島こそ深海魚が食べられる場所であるべき。深海魚を目玉、スーパースタにしたい。魚ファンを増やし、消費の場と生産の場を繋げることで水産業は成り立つ。2020年8月、産学官による「かごしま深海魚研究会」を立ち上げた。すでに食べられている魚に加えて未利用な魚を流通させる。多くの店を「かごしま深海魚研究所」としてメニューや商品を提供していただく。「うんまか深海魚」(商標、ブランド名)はSDGsの取組である。「皆さんが知らないところで常にもったいないが起きている」という事実を訴えたいと結ばれた。

 
2022年8月6日(土) 
揚村固(あげむらかたむ)先生
(鹿児島県立短期大学名誉教授) 
テーマ「国宝霧島神宮と神社建築基礎知識」

 

    パワーポイントと資料を使って詳細な説明。霧島神宮本殿・幣殿・拝殿が令和4年2月9日に国宝指定。調査が2007年から始まり「重要文化財霧島神宮建造物調査報告書」が出され、今回の指定。その前の松江城の天守閣も指定まで15年かかった。霧島神宮の特徴の一つは装飾、極彩色の絵画と彫刻。

    平安期法典『延喜式』から社号と社格について説明の後、霧島神宮配置図・平面図・断面図等を示して全体像を概観。一番手前に勅使殿、登廊下を介して拝殿、一般の人はここまでしか入れない。幣殿を経て一番奥に本殿。本殿は外から見えない。正面が5間(間は、柱と柱のあいだ)、奥行き4間の入母屋造り銅板葺き。11段の「きざはし」を上がると外陣、その向こう側に、一番大事な2間分の内陣。日本人はあらゆるものに神性を見出す。霧島神宮は山岳信仰の流れ。高千穂の峰と馬の背の間に「元宮」、御鉢の爆発で788年消失。高千穂河原に1234年まで「古宮」。1484年に現在地へ、仮の宮。島津氏が1715年に復興。拝殿は、壁を風雨から守るため「霧おおい」で締め切ってある。拝殿の奥に幣殿。本殿の外陣の欄間には唐獅子や奏楽天女の彫刻。正面両側に龍が巻き付いた極彩色の龍柱が阿吽の形で。龍柱は鹿児島神宮、新田神社、枚聞神社、蒲生神社にも。鹿児島県の神社建築の装飾の特色。龍柱をくぐって振り返ると極彩色の牡丹の彫刻、立体的で手の込んだ「籠彫り」。支えの「蟇股」には透かし彫りの上に彫刻、すべて極彩色。バロック的な激しい装飾が目を奪う。

    最後に神社建築基礎知識。神社信仰は日本独特のもの、神社神道には経典がない、そして祭神について説明の後、建築様式に言及された。同じ切妻でも入り方の違いで大きな二つの流れ、伊勢神宮は平入り、出雲大社は妻入り。蟇股や懸魚(けぎょ)など耳慣れない専門用語、しかし資料図絵やパワーポイント画面でビジュアルに示していただいた。霧島神宮は装飾の最高峰、とんでもなく時間と金を使っている。指定理由には「近世に発達した建築装飾意匠の集大成の一つである」と評価されていると結ばれた。

 
2022年8月7日(日) 
安川周作(やすかわしゅうさく)先生
(前島津興業専務取締役)  
テーマ「語られた歴史 斉彬と久光」

 

    「必ずその根拠に当たれ」が歴史への向き合い方。歴史を調べるツールは史料と史談。学者は史談を低く見る。しかし、本を読むより体験者の話を聞いた方が面白い。『史談会速記録』がある。「史談会」は明治22年、島津家が呼び掛けて、毛利、土佐の山内、水戸の徳川、三条、岩倉の六家で始まり、さらに公家や他の大名が加わって大きな会になった。明治25年から昭和13年まで47年間、411冊。昭和47年に出版社が復刻。それを全部手に入れ薩摩の箇所を読むと、今まで聞いていた話と違う。テーマを「語られた歴史」と名付けた。どちらが正しいのか分からないが、今日は「史談会」で語られたことを中心に話す。

    歴史は、当時の常識で見ることが大切。江戸時代は変化させない社会。ペリー来航、幕府に新しい事態への対応能力はない。斉彬は「日本を植民地にさせない、そのため国の仕組みを変える」、譜代門閥制度を打破し挙国一致体制を目指した。斉彬は幕府・朝廷・諸藩の全てに顔が利いたが、国元では久光が唯一のブレーン。西郷はメッセンジャー。斉彬は久光を高く評価し久光も斉彬を尊敬していた。斉彬の急死、久光は相続を辞退し忠義が藩主、祖父斉興が後見人に。斉興の死で、久光が国父として斉彬の遺志実現へ行動を開始。文久2年4大事件、①久光の率兵上京、②西郷再流謫、③寺田屋事件、④生麦事件、久光は斉彬ビジョンの実現を図るが、意に反して攘夷のヒーローに。朝廷からの褒賞を辞退、追贈を願い出て斉彬を従三位中納言(照国大明神)に。薩英戦争後の和睦交渉、久光は薩摩の体面より国内安定を優先し支払いを承諾。小松・大久保・西郷に「同士喧嘩をしていては外国に対応できない、私怨を捨てて長州と和解」を指示、2年後の薩長同盟に。廃藩置県に怒って一晩中花火を上げたのは西郷への怒り。西郷は久光に「現今のごとき府藩県の制度を執りて」と伝えながら上京後180度転換、久光は「自分を瞞着して事をすると云うは、旧君臣の情を知らぬものである」と激怒。

    久光は、「我が国にある大和魂というものが自然消滅して、実に取返しの附かぬことになりはせぬかと心配に堪ぬ」「予(久光)は多少今日の風潮を矯むるの微意あれば、わざと頑固の体を装えり」と。大隈重信は久光を「天晴当世の名君、一世の英俊として深く之を尊敬する」と。急激に変化すると人々の心が荒む、政治的な植民地になるのは免れたが、精神的な植民地になることを、久光は一番恐れた。

2022年8月7日(日) 
下豊留佳奈(しもとよどめかな)先生
(郷土史家)  
テーマ「鹿児島の文化財を訪ねて」

 

    大学等で非常勤講師、テレビ局で鹿児島の偉人紹介コーナー、「FMさつませんだい」でレギュラー番組を持ち、歴史の話をしている。ほかに地元紙に書評を書いたり、鹿児島県偉人カルタ(子ども向け)を作ったり、ツイッターやインスタグラムでも歴史のことを発信。令和3年度、県の事業「鶴丸城跡にぎわい創出事業」のお手伝い、「鹿児島再発見!文化財魅力開花推進事業」では文化財の紹介パンフレットと動画を作るお手伝い。昨年度、文化財に関わるお手伝いをしたので、その活動報告も含めて文化財の話をさせていただく。

    「鹿児島文ゾーンガイド」スタンプラリーが一年中行われている。古地図の上にスタンプを押す。「鹿児島文化ゾーン」は、博物館や美術館、図書館などの文化施設や史跡が集まる鹿児島城(鶴丸城)周辺エリア。ネットに載せたCM動画を紹介。「御楼門」は明治6年に火災で焼失、147年ぶりに令和2年3月、日本最大の城門として復元。県の史跡に指定。その特色、見どころを写真で詳細に説明。内部は非公開、昨年1回、イベントがあり、その際に撮った内部写真を使って臨場感あふれる説明。県は「VR鹿児島城~よみがえる薩摩の館と城下町~」のアプリを今年から配信。360度鹿児島城の姿を体験できるとともにスポット解説や攻城ゲーム等、鹿児島城を学び楽しめる。

    「鹿児島再発見!文化財魅力開花推進事業」は、県の事業として3年にわたって進められ、2019年度に鹿児島地区、北薩地区、2020年度に姶良伊佐、大隅、南薩地区、そして昨年度に熊毛地区と大島地区。「私は2020年度と21年度にお手伝いをした」と。ネット上に、歴史ガイドブック、リーフレット、PR動画を掲載。熊毛地区の種子島・屋久島1泊2日コースの「自然満喫コース」動画を分かりやすく解説しながら紹介された。

    地域によって手入れの仕方等、文化財への対応に大きな差がある、市町村によって熱量に差がある。また、指定されても難しい後継者問題(国指定重要無形民俗文化財「市来の七夕踊り」は、本日7日が最後の奉納)。会場からは「鹿児島県にカルチャーへの関心を高めるには?」という発言もあった。