2024年9月14日(土)
福永秀敏 先生
(鹿児島県難病相談・支援センター所長)
テーマ「喜寿を生きる」
現在、難病の相談と離島での検診や講演が仕事。団塊の世代が直面している問題、生命倫理や延命治療を中心に、「つれづれなるままに」話しをさせていただく。柱は①筋ジスを生きた患者さんとのこと、世の中は変わったなあとの思い ②喜寿同窓会、団塊の世代の生き方 ③ナラティブに綴る『難病医療と我が人生』 ④瑞宝中授賞 ⑤生命倫理の問題、延命治療 ⑥人生会議(ACP) ⑦健康長寿 ⑧幸福感
永年付き合いのあった患者さん(良性の筋ジス、77歳)が、昨年亡くなった。斎場に30を超える生花、多くの弔問客。40年前、南九州病院に赴任した頃、「自分の子どもたちを見送ることができたらいいのだけど」という親御さんたちの会話を耳にした。それを思えば、「世の中の考え方が変わった」といい意味で実感した。南九州病院の30年、「置かれた場所で咲きなさい」を実践してきた。最初は戸惑いもあったが、患者さん(多くは筋ジスの子どもたち)との関わりの中で、彼らの「靭さ」に圧倒された。ノーベル賞受賞者のガジュゼック博士は「高い文明を持つ市民社会が確立しヒューマニティと知性に溢れるスタッフがこの困難な病気に真摯に向き合っていることに感動しています」と表現。私にとってまさに「ユートピア的病棟」、楽しかった、悲しかった、幸せとは何かを教えてくれた。昨年4月、『難病医療と我が人生』を刊行、故井形昭弘先生の「自分史を創ろう」という言葉の実現。人にはそれぞれの物語がある。人生は思い出作りを紡ぐ旅でもある。患者さんとの関わりをナラティブに話すことで、「命を支える、生きがいを創ること」に医療者がどのように援助できるかを考えながら、これまで7冊の随筆集を編んできた。
画面に昭和38年、城西中学の全校朝礼風景。3600人(団塊の世代)が来年は後期高齢者。病院には入院できず、特養も満杯、そしてお墓も…。自分の健康・逝く末は自分で考える、健康長寿に心がけて、病気になったら延命治療などしないでさっさと死ぬのが正解。倫理(道徳)とは、一定の価値観に基づくルール、人それぞれ自分の倫理規範がある。ALSで呼吸器装着の是非、筋ジストロフィでは、胃ろうの問題も。いくつかの事例紹介の中で、「才媛という言葉はこの女性のために作られた言葉ではないかと思う。私が呼吸器の装着を勧めたことを後悔している唯一の女性である」と悔恨の念を語られた。人生会議(ACP)、自分の意思表示を元気な時にしておくこと。幸せには人それぞれの形がある。医者としては、できるだけ黙って聞いてあげる、苦しみには寄り添いたい、それぞれ人の考えは違うことを認める、座右の銘は「テゲテゲ」。穏やかな表情、ひょうひょうとした語り口の底に、人の生き死にと関わりながら積み重ねたものの重さが。