2022年5月21日(土)
高嶺欽一(たかみねきんいち)先生先生
(元南日本新聞社論説委員会委員長)
テーマ「老いゆく世界 ―進む少子高齢化―」
先生には、造士館講座運営委員会の監事として、日ごろから貴重なご助言をいただいている。アクリル板越しに、かくしゃくとして元気な声が子ども時代を語る。現韓国のソウルで生まれ、9歳の折、敗戦で父親の出身地鶴田村(現さつま町)に引き上げた。小学生ながら、田植えの手伝い等、農作業の真似事を体験。見よう見まねで、山に入って小鳥のワナを仕掛け、竹ひごでハナシ(メジロ)籠を作った。農村で育った他の子どもたちと比べたら全くの下手。子どもながら劣等感を味わったが、非常にいい体験だった。
テーマに関心を持つきっかけは、新聞記者になった昭和34年、この頃から経済の高度成長が始まった、鹿児島はマイナス影響を被った地域、日本列島の中で先頭を走っていた過疎地帯。南日本新聞も過疎化を追いかけた。3人でチームを組み、取材に回り、続き物を連載した。昭和31年集団就職列車の運行は鹿児島県の「発明」。農村から若い世代の人口流出が始まる。月刊誌『世界』の昨年8月号掲載の特集「やがて世界で人口が減る時代に入る」を読んでショックを受けた。これまでに集めた資料や書籍を読み返し、文献に当たった。地球規模で、ほとんどの国で人口が減る状況にさしかかりつつある。配布された資料の「国連の推計 2019年版」では、世界の人口が今世紀中は増え、その後、減少に。「ワシントン大学の推計 2020年」では、2064年に97億人でピークを迎え、今世紀末に88億人まで減少。日本及び鹿児島県の「将来人口推計」も右肩下がり。特徴は年少人口減少、高齢人口増加。戦後経済の高度成長に伴い、農村地域から大都市圏へ若者人口が過度に流出、日本列島が不均衡な発展を遂げた。論文「高度成長にほんろうされた鹿児島」(2002.3)の中で、県民所得が国民所得の7割程度、向上策としての工業誘致、「貧乏県」の汚名返上に結びつかなかった例を紹介。人口減少への具体的な対策は大変難しいこと。
人口減少の諸相として「過疎化」「限界集落論」「地方消滅論」を紹介。一方で、人口減少を歓迎する主張もある。世界の人口は多すぎる、適正規模は20億人~25億人、「人口減少社会という希望」、ある程度人口が減ってゆとりをもって暮らせる地域社会をつくる必要がある、昨年あたりから行き過ぎた経済成長重視への反省も。一連の問題提起に、会場から「安心・安全な子育て環境の整備を」の声も上がった。