8月夏期集中講座レポート

8月7日、8日の2日間、造士館講座夏期集中講座を実施しました。2日目は、諸事情からオンラインでの講座になりました。参加いただいた皆様、ご協力いただいた講師の先生方に心から感謝の意を表しつつ、講座の内容をご報告いたします。

2021年8月7日(土) 
松尾千歳(まつおちとし)先生
(尚古集成館館長)  
テーマ「世界史の中の鹿児島」

 

「鹿児島は輝いて見える」という言葉で始まった。1596年、京都の学僧・藤原惺窩は、海外交易でにぎわう内之浦(鹿児島県肝付町)に上陸、そこで目にした光景に衝撃を受け、「日本が狭隘で、世界が至大であることを思い知らされ、視野を世界に広げるべきであると痛感させられた」と記した。京都の歴史は日本国内で完結するが、鹿児島は完結しない。鹿児島の歴史は世界を視野に見ていかなければならない。歴史的に鹿児島は海外への窓口、外交の最前線だった。中世の鹿児島は、琉球を経由して中国南部や東南アジアと交流、中国貿易の拠点であった。至る所に外国人居留地や中華街があり、大学近くの唐湊(とそ)や神田(しんでん)等の地名は中国音の名残。「薩摩はいろんな国の船がいつも停泊しているところ」(1594年 許豫の報告)だった。

明の「海禁」(一切の私貿易、一般国民の海外渡航を禁止)下における後期倭寇(主力は中国の武装商人)は多国籍の集団、日本人が1割、拠点として「対馬島」「五島」「薩摩州」が記されている。大航海時代、マラッカに進出したポルトガルは、明と合法的な貿易ができず、倭寇と手を組む。琉球から奄美を経て玄関口の薩摩へ、種子島の鉄砲伝来は偶然ではなく必然だった。ザビエルの上陸についても同様。1587年のメルカトルアジア図に描かれた日本の形は楕円形に過ぎないが、位置は正確、奄美や琉球の島々への連なりはよく捉えられており、「Cangoxina」の文字(大河ドラマ「せごどん」へ資料提供)がはっきり記されている。

幕末、日本を何とかしなければという動きは薩摩から始まる。戊辰戦争は、日本が植民地化されないため、日本を一つにを目指したもの。世界を見据えた動きをしているのが鹿児島、鹿児島の歴史を語るときには、世界と連動した動きを念頭に置かなければならない。世界に羽ばたいた歴史を持つのが鹿児島、そのため誤解されやすい。その誤解を一つ一つ解いて鹿児島の本当の姿を広めていきたいと結ばれた。

 
2021年8月7日(土) 
丸山征郎(まるやまいくろう)先生
(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科特任教授) 
テーマ「理想を生む脳、育む脳」

 

人は、苦難・苦痛・失敗・悲しみから、いかにして脱却するのか?高い理想を求め、果敢に行動した薩摩の先達①ゴンザ、次いで同時代の②ニッポン音吉、③ジョン・万次郎、④ジョセフ・彦、さらに15名の薩摩の留学生の行動と、彼らの求めた理想と社会像を説明。優れた先人の成功のバックボーンに「優れた独創性、先見性」「不屈の粘り」「運を呼び寄せる力」があるとされた。このような創造性、先見性、不屈の精神はどこから来るのか、どうしたら発揮できるのか、これらを伸ばす方法は何か。

ご自身の血管内細胞の研究について、最初に血管凝固学を研究するに至った経緯を話された。なぜ血管の中では「血」は固まらないのに、血管外では瞬時に「血は固まるのだろうか?」という素朴な疑問からスタート。「血管内皮細胞の障害=抗血栓活性の減弱」が血栓、梗塞に繋がると仮定。米国のワシントン大学に、他教授からの推薦もないまま、ご自身で手紙を書き、その「やる気」だけを認められて、全くの無名の人間が採用された(本人談)。血管の最内層の血管内皮細胞上にトロンボモデュリン(TM 抗凝固蛋白)が密に存在していることを見出し、遺伝子組み換え体のTMを創り、創業化に成功。日本人が遺伝子構造を決め、創業化した初めての薬。その後、鹿大農学部で単糖の研究に入られたとのこと。

「私の関わる医科学(基礎)の場合」として、①先行する成果・説に振り回されない(臨床は別)、②粘る・あきらめない、③結果を上から下から逆からも眺めてみる、④発生・分化とか進化とかの視点を入れて考えてみる、⑤デフォルトモードネットワーク(DMN、虚心坦懐)で当たってみる、この五つを挙げられた。DMNは、ぼんやりと安静状態にある脳が示す神経活動。創造性と関係しており、DMNが活発になると創造力が高まり、色々なアイデアが浮かんでくるとのこと。冒頭の先人たちも、先例を気にせず、己の信じる道を進んでいる。失敗がいっぱいあって立ち直っていくのが人生、草競馬、砂競馬こそ、我らの活躍の場であると結ばれた。

 
2021年8月8日(日) 
須永珠代(すながたまよ)先生
((株)トラストバンク会長兼ファウンダー)  
テーマ「地方創生とは?」

 

トラストバンクは「ICTを通じて地域とシニアを元気にする」というミッションの下、日本最大級のふるさと納税サイト「ふるさとチョイス」を中核として地域の活性化事業を推進している。「元気」とは、ヒト・モノ・お金・情報が循環している状態。「ふるさと納税」は、自治体が行う資金調達であり、しかも自由に使える財源、自治体が支援したい産業や団体への活用が可能である。ガバメントクラウドファンディング、「ふるさと納税」を契機にした地域の課題解決は、トランスバンクのビジョン「地域が自立し、持続可能な状態(ヒト・モノ・お金・情報の流通)にする」でもある。7月17日、大崎町の竹原静史主幹の講座「地域と共創するふるさと納税」が、その実例であることを再認識した。

鹿児島県の産業構造は、宿泊・飲食業が上位2番目。しかし付加価値は小さい。資源を生かし切っていない、それは伸びる可能性があるということ。経産省の資料で、2015年の鹿児島県の地域経済循環率は82.2%。100%にするには、「地域外」から「地域内」への「稼ぐ」、「地域内」から「地域外」への「漏れを防ぐ」、何よりも「地域内」における「域内循環」が重要である。どこで稼ぎ(ふるさと納税、観光業等)、どこで地域エネルギーの漏れを防ぎ、そして地産地消等の実現による域内循環、この3点が少しずつ良くなれば、持続可能な経済圏が創れる。これを意識した仕掛けが必要。日本、鹿児島は資産・資源の宝庫。産官学の垣根、老若男女の垣根は時代的にナンセンス、生産年齢人口に縛られる必要もない、いろんな人が活躍できる未来、鹿児島でありたい。

どうしていけばいいか。「思考」が大切。蓋をしない思考。そして「決断」、失敗したらやり直せばいい。リスクは必ずある。最後に「行動」。自然と方向性は見えてくる。明治維新を起こした薩摩。時代は幕末と似ている。令和維新を起こすという気概で一緒にやりましょう。すこぶる元気の出る話だった。

2021年8月8日(日) 
前田恵一(まえだけいいち)先生
((株)レゾナンス代表取締役社長)  
テーマ「第4次産業革命の最中にいる我々と今後の社会の姿」

 

「カーボンニュートラル」と「デジタルトランスフォーメーション(DX)」、2021年、社会はこの二つで動いている。温暖化に社会がどう対応すべきか、それにからんだビジネスが台頭している。

最初に「カーボンニュートラル」。今や化石燃料(CO2の排出)の依存度を下げることが社会のトレンド。日本は、化石燃料を使わずエネルギーの自給率を上げるという難しい舵取りを迫られている。石炭権益から天然ガスへ、製鉄は高炉から電炉へシフト、農業と温暖化対策の距離も近くなった。飛行機で乗客1人を1キロ運ぶのに排出されるCO2は鉄道の20倍。ヨーロッパの若者世代で、Flight Shame(飛び恥)として飛行機を手控える動きが広がっている。

環境と経済が両立する時代。SAF(CO2排出量を抑えた、持続可能な航空燃料)を飛行機会社と無関係の企業が買う動き。その意図は、投資家・個人顧客・取引先へのアピール。RE100は、再生可能エネルギー100%で事業運営しようとするグループのこと。サプライチェーン全体でCO2の削減が求められる時代、RE100が広がりつつある。投資家にアピールする内容は経済合理性だけではない。ESGデータ(環境・社会・ガバナンス、企業の長期的成長を測るための指標)の開示が求められている。CDP(環境に対する取組を評価、格付けしている機関)を参考にするプロの投資家も多い。

DXは、デジタルで人々の生活を豊かにしようとするもの。データを大量に集めてAIを駆使して高速にビジネスモデルの改善を行うこと。AIは、大量のデータから機械学習を行うもの、特にディープラーニングが得意、予測する力と画像認識に優れる。第4次産業革命の時代、AIへの置き換わり、既存事業が消滅するほどのインパクト。膨大なデータを収集して、AIが解析する時代にあって、改めて何を仕事として選び、そこに支援するかを考えさせられる時代に生きている。加えて、環境対応も待ったなしである。